今回のゲストはジョン・ランドル先生です。 先生は、カリフォルニア大学デーヴィス校で物理学と地質学の 特別教授をつとめていらっしゃいます。また、サンタフェ研究所の招聘教授でもあります。 先生は、動力学系や複雑系を利用して地震予知や、危機管理の方法について研究しておられます。 また、そのような手法をほかの自然現象に拡張しようとしておられます。 例えば経済危機等のような現象です。 ジョン こんにちわ。 ご紹介ありがとう。ジョン、このコースは、フラクタル等をカヴァーしています。 まだ、べき乗則(power laws)については議論してないけどフラクタル次元についてや、有名なフラクタル図形のいくつかについて議論しました。 先生は、フラクタルのどのような点に関心がありますか? そうですね、地震の断層帯との関連ですね。断層帯で地震が起きるわけですが。 地震断層帯は、特異な地層で、地質学的に見れば、表層にあらゆるスケール、あらゆるサイズの断層が存在します。 それぞれの断層を追跡して、よく観察すると、種々の幾何学的なフラクタル性があるように見えます。 地震断層の幾何学的形態ばかりでなく、その統計学的な性質も、ある意味、フラクタル的です。 つまり、べき乗則に従うという意味でフラクタル的です。 例えば、小さな地震の数を、断層から出力されるエネルギー(サイズミック・モーメント)の関数としてみると その数は、べき乗則に従うことが分かります。また、そのような性質は、 断層構造の元にあるフラクタル的な特徴を反映していると考えています。 これは、我々の研究とフラクタルとの関わりの一例です。 なるほど。このコースでは、時系列のフラクタル解析、たとえば株価の時系列なんかについて見てきました。 それで、フラクタル時系列解析手法が、地震の時系列解析にどのように役立つんだろうって考えるんですが。 ジーン・スタンリーやディディエー・ソネットのような人たちがその分野では多くの研究を行っています。 つまり、地震と、金融市場の暴落の間の類似性、暗喩性、に関しての詳細な研究が行われています。 興味深いことに、最近は、金融暴落を地震的な事象として捉える例が増えています。 そして、金融暴落には、余震のような現象が伴います。 つまり、株の価格変動の統計的分布、つまり、価格の変動の頻度をその変動の大きさの関数として見て、その最も大きい変動を示す部分のみに着目すると、 地震の頻度と大きさの統計的性質にとてもよく似ていることが分かります。 つまり、両者の分布のテイルの部分はよく似ているのです。 従って、金融暴落を地震に似たような事象として捉えようとする動きがあります。 フラクタル的な特性を株価の変動などに当てはめることについてはいくつかの反論もあると本で読みましたが、 先生はフラクタル的な手法は株価の変動等の解析に有効だとお考えですか? もちろんです。理由は、そのような現象を、様々な異なる方法で確認してきたからです。 つまり、種々の異なる数学的なレンズを通して確認してきたと言えます。 そして、このような、(金融暴落と地震の間の)アナロジーには、物理的有効性があると結論しています。 じつは、最近の私の仕事の多くは、論文に発表していません。 その理由は、フラクタル等の考え方を用いて実際の金融システムのモデル化をしているからです。 現在、ヘッジファンドのクオンツを相手にコンサルタントもやっています。 彼等は、実際の取引に役立つアルゴリズムを作り出します。 地震予知の技術の現状は、どのようなものでしょうか? 地震関連で言えば、基本的な考え方は、グーテンベルグ‐リヒターの強度‐頻度関係です。 この言葉は初めて出てきますが、基本的に、大きな地震ほど発生頻度が少ないということとほぼ同じ意味です。 これこそがべき乗則です。分かりやすく言えば、マグニチュード3の地震1000回起きると、マグニチュード6の地震がほぼ1回おきるというとです。 マグニチュード4の地震1回に対して、10回のマグニチュード3があって100回のマグニチュード2が対応します。 つまり、最近マグニチュード6の地震が起きた場所でマグニチュード3の地震を数えはじめるとします。 そうすると、マグニチュード3のカウントが1000回目に近づく頃に、次のマグニチュード6が来るということです。 このような考えをベースにopenhazards.comというウェブサイトを作りました。オープンサイトですから、是非地震の広域予測を体験してください。 なるほど。で、その予測はどのくらいうまく行っていますか? ええ。我々の方法を標準的な評価方法で評価しています。ブライアー・スキルス・スコア法や、リライアビリティ・アトリビュート・テスト法や、レシーバー・オペレーティング・キャラクタリスティック法などです。 これらの評価法は、天気予報や、価格予測などの一般的な予測法の評価に用いられているものです。 自分で、よく当たる予測法を編み出すこともできますよ。 さて、次は、確率を扱うことななります。最近の出来事で興味深いのは、日本の領域、つまり、日本全土を含む領域についてです。 日本では、2011年の3月11日にマグニチュード9の地震が起きて、津波で2万人の方が亡くなりましたね。 そして、あの地震以来、マグニチュード5の地震が千回起きています。つまり、この2年間で千回のマグニチュード5が起きているということです。 これを、先ほど話しました関係に当てはめれば、マグニチュード6が100回、7が10回、そして、8が1回起きておかしくないのです。 つまり、日本は、現在マグニチュード8あるいはそれ以上の地震がここ1~2年で起こるリスクを抱えていることになります。 これが実際のところです。ブログにもそのように書きました。そしてできるだけ多くの人にこの可能性について知らせました。 どのようになるか見守るしかありません。 このような統計、つまり、先ほど言いましたグーテンベルグ・リヒターの強度-頻度関係式、これは、まさにべき乗則ですが、 この関係式は、世界のどの領域でも、常に成り立ちます。つまり、堅牢な、統計的性質を持っているということです。 でも、地震がいつおきるかを予測することはなかなかできませんね?例えば、1年かそこいらで起きるとか。 常に予測できるわけじゃありません。ただ、近い将来にそのような大型地震が起きる条件が揃っているということです。 わかりました。同じような手法が金融市場の価格暴落の予測に適用できると思いますか? なかなかいい質問ですね。でも、その答えはまだわかりません。 まだそのような方向からの観察を行っていないからです。 お分かりのように、このコースで学習している方もご存知かもしれませんが、価格変動は、統計的に、いわゆるleptokurtoticであるのです。 つまり、その分布関数は、べき乗則のテールを持ち、中心部は、ガウシアンのように見えるのです。ですから、純粋なべき乗則に従う地震の場合とは少し異なります。 従って、考え方自体も変化させることが必要ですが、まだ試していません。試す予定です。 では、先生の現在の研究で、最もエキサイティングなものは何でしょうか? 現在は、地震予知に取り組んでいます。また、広大な断層帯の数値シミュレーションにも取り組んでいます。 これは、地震断層モデルです。気候予測モデルに似ているのですが、 コンピュータに多断層やサブ断層や部分断層からなる系を生成して。、それらを相互作用させ、摩擦力の影響も考慮します。 基本的には、何百万もの地震の時間変化を合成的に生成するという考えです。そして、それらの統計的な性質を調べるのです。 すばらしいですね。最後の質問です。 このコースには、様々な分野の人たちが学んでいます。中には、複雑系の領域にはいろうとしている人もいます。 しかし、多くの分野について学ぶ必要があるので気が引けてしまっている方もいます。 そこで、複雑系分野に興味を持っている学生に何かアドヴァイスをおねがいしたいのですが。 学生へのアドヴァイスですね?いくつかのことを言っておきましょう。 一つ目は、計算についての良質なバックグラウンドがあること。数学についての知識も必要ですが、極端に高いレベルのものでなくてかまいません。 微積分の知識は確実に必要でしょう。確率・統計のいくつかの知識は明確に必要でしょう。 そして、開かれた心が必要でしょう。数多くのアイデアを考慮する必要があります。 また、見かけ上全く異なる系が、実は、隠れた部分で似通っている場合もあります。 つまり、それは、特定の人、即ち、道を究めようとする専門家にとっては、想像力の大きな飛躍なのです。 しかし、また、この分野で何らかの進歩をするために、あなた達自身が達成しなければならない飛躍でもあるのです。 なるほど、ありがとう   こちらこそ